しのだひろえの歩っとタイム Vol.90
心細さを和らげてくれる赤ちょうちん~山手線一周ウォーク13~
田端は文士の街で、芥川龍之介の旧居跡も田端駅から歩いて5分ほどのところにある。田端文士村記念館も駅すぐにあるほどなのだが、それを知ったのはほんの数年前のことだ。
田端駅、これから歩く日暮里方面は、私にとっては生活圏外の街でなかなか足を運ぶ機会も少ない。これから田端から歩くわけだが、空に月がでて夜になってから歩く道のりは果たしてどんな景色を見せてくれるのか。
田端の茶目っ気にくすりっ。
実はこの山手線一周をする前に事前の下見をしている。慎重派な私としては同じところを何度も歩くということをする、念入りに。下見の頃はちょうどクリスマス前ということで駅前の銅像にはすっかりクリスマス仕様。正確にはクリスマス仕様ではなくて交通安全仕様なのだが、クリスマスっぽくしようという心意気が感じられてこういう茶目っ気、嫌いじゃない。下見の時の写真だが、みなさんにもこの茶目っ気をお届けする。
さて田端駅から西日暮里を目指すのだが、ちょうど居酒屋もオープンし、ちょうちんの明かりと飲んでいる人々の笑い声がそれはもう魅力的に見える。
きっとここまで歩いてきたからビールの一杯も飲みたいのでは?とこのコラムを読んでいるみなさんは思うかもしれないが、それがそうでもないのだ。東京駅まであとなん駅あるんだと指折り数えてきた中で、やっとそらで言えるくらいの数の、知った駅が続くのだ。先が見えているんだ、ゴールが見えているんだ、ここまできたらゴールしたいんだ!というわけで、かなり神聖な気持ちで赤ちょうちんの中を歩き続ける。
夜だからこそ。
田端駅から西日暮里駅までは飲食店が立ち並びこの先ずっと明るい道が続くかといえばそうでもない。外灯の少ない道が半分以上ある。夜は昼とはまったく違う顔をしていて、ここはまさか間違えないだろうという道を間違えるし、いくらライトを持っていてもやっぱり夜道は別物だ。ひとりで歩くには怖いくらい坂道をいけば、その先に「西日暮里駅」という文字が見えてくる。人の気配がする場所とそうでない場所、それぞれの怖さがあるな。
西日暮里から日暮里駅もなかなかの難関
西日暮里駅周辺は田端駅以上に飲食店が広がっていて、ちょっとほっとする。やっぱり明るいというのはいい、温かい、心がゆるむ。
西日暮里から日暮里駅は目と鼻の先で、その間ずっと道の両脇の飲食店から賑やかな人の笑い声が聞こえてくる・・・とうイメージだったが実際はそうでもなかった。田端駅と西日暮里駅と同じく、うすぐらゾーンが・・。いや真っ暗ではない、真っ暗ではないのだが道が分からない。ライトがあっても役に立っているのかどうか分からない程度に道が分からない。東京でもこんなに暗い道があるのか?決して小路でも脇道でもないのに、大きなトラックだって通る大通りなのにこんなにも暗いのか!?人気のなさと夜の静けさに本当に日暮里駅に向かっているのか不安を抱えながら、歩く。
カンカンカンカンという踏切の音を聞きながら、もうすぐ日暮里のはずと電車の通過を待ちほんの数十秒歩いたとたんに見つけた!いい雰囲気の居酒屋だ。その先には飲食店だけではない数々の店が広がっているではないか!もうすぐ日暮里だ、ここまで来たんだ。
当然明るいだろうと思っていた東京の街に、暗闇といっていいほどの道があるとは思いもよらず、こころ細さが募った田端から日暮里ルート。今度歩くならにぎわっている居酒屋に飲みに行く時だな。
さて山手線も残すは5駅。ゴール目前・・とまではいかない距離だがゴールが見えてくると力がはいる。さぁ歩くぞ。