しのだひろえの歩っとタイム Vol.89
“かたわれどき“の心細さと寂しさと。~山手線一周ウォーク12~
新海誠監督のアニメーション映画「君の名は」を観たことがあるだろうか。2016年公開で、かなり話題になった映画のひとつで、四谷の須賀神社をはじめ聖地巡礼ツアーもあったほど。
この山手線一周となんの関係があるかというと、「かたわれどき」。主人公の二人が出会う印象的なシーンはこの「かたわれどき」で起こっている。
この「かたわれどき」のなんとも表現できない体感や不安や怖さみたいなものを、巣鴨から先駒込田端と歩きながら感じることになる。
巣鴨から駒込の平和な道
巣鴨から駒込までは、平和な道が続く。平たんだし住宅街だし、夕方の買い物や子どものお迎えを終えて自転車に買い物袋と子供をのせて自転車を走らせるお母さんもいれば、帰宅途中のサラリーマンもいる。こういう何気ない風景こそ平和を感じさせる。
それぞれ、みな、自分の居場所に帰っていく時間なのだ。
駒込、田端間が意外と大変!?
駒込に到着するころはもうほぼ夜といった感じながら、まだ日が沈み切らない頃。昼とも夜ともいえない時間でこれがまさに「かたわれどき」。一般的な言葉にしたら「たそがれどき」だろう。
こういう「たそがれどき」がもっとも交通事故が多いというが、こうして歩いてみるとなるほど。ふだんはあまり感じたことがなかったが、気をつけようと思うのに注意力が散漫で少しふわふわした感じ、疲れもあるのだろうか。
映画ではこの「かたわれどき」が時間と空間の糸がほぐれ時空を超えた一瞬として描かれていたが、確かにそうかもしれない。昼と夜、この世とあの世、陽と陰…さまざまなものの“はざま”というのは気が緩み、ふらふらしてどこか異空間にいるような体感がある。「逢う魔が時」ともいわれる時間だそうで、まさに魔に逢う時間でもあるようだから、やはり特別なのだ。
「かたわれどき」「たそがれどき」「逢う魔が時」、とにかくその頃に歩く駒込から田端まではここまででもっとも怖さや不安のつのる道のりだった。道が見えにくいことや住宅街であることや、薄暗くてまだ目が慣れなくて人とぶつかってしまうのではないかというのもあるが、大きな扉が閉まり暗闇に取り残されるような感覚とでも言おうか。とにかくこの時間帯はお気をつけを。
田端よ、こんばんは!
田端駅に着くころには夜になり、街の外灯も家々の照明が増えてきた。夜になったことで「かたわれどき」ならではの浮遊時間が終わりまた気が引き締まる。
田端駅に着いた頃には、明るい月がでていた。