しのだひろえの歩っとタイム Vol.62
歩くことでつなぐ人生のストーリー~区役所アート・杉並区編~
そのリンゴは愛のリンゴ?それとも。
面積のわりにアートが多い、それがこの杉並区役所だろう。敷地内をあるけば3つもの区役所アートを見つけることができ、これがまた美しく上品。中には見る人によってストーリー性を感じさせる作品もある。
まず正面入り口にある杉並区平和都市宣言の像
なめらかな石のアート「地の芽」。たまに子どもたちがこの上にのって遊んでいることもあり、子どもってなんでも遊びにする天才!と思うとともに、確かになんとなく触りたくなってしまう流線形がこの地の芽の魅力なのだろうと感じる。この曲線を指でなぞりながら歩きたくなる。
そして杉並区と言えばこの区役所アートは見逃せない。「お誕生日おめでとう」という名の区役所アートは裏手にあたり、ベンチもあってちょっとした休憩スポットでもある。
金のりんごをプレゼントしようとしているように見える男性と、イスから立ち上げて男性に声をかけているように見える女性。バレエか舞台を見ているような素敵な区役所アートだ。23区の区役所アートの中でも特にこれほど躍動感を感じさせるのは多くないだろう。近いのは渋谷区の「なかよし」像か。あちらは子どもたちが手を取り合って輪を描きながらステップしている。
この区役所アートのストーリーを想像しているだけでも楽しい。この二人は恋人同士なのか兄弟なのか。金のリンゴは愛のリンゴか、はたまた毒リンゴか。金のリンゴは「神の食べ物」、ならば不老不死を願う女性の象徴か、リンゴの果実の花言葉は「誘惑」、ならばこれは毒リンゴか・・。ストレートな解釈もそうでない解釈もできるし、想像は自由だ。
歩くことでつなぐ人生のストーリー
杉並区内を通る神田川と善福寺川はそれぞれ治水され、川沿いには桜が植えられた素晴らしい散歩道である。桜が満開のころも美しいが、川に桜の花びらが舞い散るころこそ、この神田川と善福寺川沿いを歩く醍醐味だろう。
こういう道には思い出が宿る。同じ季節にこの道を歩くことによって、去年の景色を思い出すし、来年の景色に想いを馳せるものだ。去年より大きくなり美しい花を咲かせる椿の木は、来年はきっともっと大きくなっているだろう。そのころ自分は、一体何をしているのだろうかと。来年はちがう道を歩んでいるのかも、など。
日々の歩くことには体や心を整えいい状態にするという効果があるが、もっと長い目でみれば、過去・現在・未来という人生のストーリーをつなぐという面もある。これこそ歩くことの魅力のひとつだ。歩くからできるストーリーがある。
「人は過去に生きる」という言葉を聞いたことがある。これは「人は歳を重ねるほどに懐かしい過去を、心の支えにして生きる」という意味だったと記憶している。確かに生きてきた、人生の楽しいことや家族とのこと、あらゆるストーリーを歩くことがつないでくれる。これからも歩いてできる楽しい記憶と思い出をつくっていこう。