早稲田から始まった都電荒川線を歩く旅もいよいよ終点間近。
さまざまな街並みや景色を楽しんできましたが、ゴールにあたる三ノ輪はいったいどんな街なのでしょう。
釣り堀があるのどかさ
荒川自然公園から荒川区役所前停留所に向かう道は、とてものどか。バラが植えられた都電の線路沿いは開花シーズンにいけばきっと美しいに違いないし、下町らしい風情もある。ぶらりとひとり歩きするには最高の道である。
荒川区役所前停留所に到着後、区役所まで足を伸ばしてみると驚くことに釣り堀が。良いお天気の中、のんびり釣りを楽しんでいる人を見ていると、こちらまでのんびりとした気持ちになるから見ていて見飽きない。こういう何気ない景色こそしあわせのなす姿なのかも。
正確にはここは区役所の敷地ではなく隣接した公園であるようだが、こういう癒しの場をつくる区も珍しいのでは。前回の池の形といい荒川区はかなり異彩を放つ区のようで、これまでのイメージががらりと変わった。
さて、次の停留所である荒川一中前にむけて歩き始めたものの、ものの10分ほどだろうか。驚くくらいすぐに到着してしまう。もうあと少しで終点の三ノ輪橋である。
・・と、荒川一中前停留所の手前に有名な商店街のひとつ、ジョイフル三ノ輪への入り口が!おそらく終点まで直進すれば5分もかからない。ならばちょこっと横道に入ってもそうは変わらないし、何より寄り道こそ気ままなぶらり歩く旅の醍醐味というもの。
ジョイフル三ノ輪を歩こう!
アーケードにはいってすぐ、あちらこちらに「中島弁財天」という赤い旗が見えてくる。矢印に従って歩くと細い路地を入ったところに中島弁財天が。
「(略)かつて、江戸時代から明治二年の版籍奉還まで大名 伊勢亀山藩主石川家(六万石)の下屋敷・抱屋敷として立地し、その屋敷内に大きな弁財天が有り、その中の島に祀られていた「中島弁財天」に由来するものである」(現地、中島弁財天横の案内版より)
なるほど。こうしてひとつひとつその土地の歴史を知ることができるのも歩く魅力というもの。
ではアーケードに戻り、初めてのジョイフル三ノ輪を満喫しようではありませんか!
ふむふむ。八百屋さんは安いし、餃子屋さんがやけに多い印象。お総菜屋さんもパン屋さんも下町らしくてなによりどこの店も店構えがレトロ。昭和を再現した映画のセットに入り込んだよう。
色の配色がレトロな銭湯と、向かいにある有名なお蕎麦屋さん。暖簾の色あせ具合や看板がまたいい雰囲気を醸し出していて老舗感がある。
このジョイフル三ノ輪の雰囲気は実際に歩いて体感してみてほしい。写真や動画では伝わらない何かがあるから。それにしても「ジョイフル三ノ輪」という商店街の名前はいったいどういう経緯でついたのか。ジョイフル・・という言葉を商店街名に使うなんてなかなかどうして勇気がいるはずだし、きっと「エンジョイ三ノ輪」という選択肢もあっただろうに。どうもそれが気になって仕方がない。
そうこうしている内に終点の三ノ輪橋停留所に到着。「やった~終点だ!よくやったねぇ!」誰も私が早稲田から歩いたなんて知らないだろうけど、自分なりにはかなり嬉しくて思わず声がでる。
よく観察すると、この停留所はやはり他の駅とは違い特別感がある。こんな昭和初期の看板にお目にかかれるし。
きっとシーズンには美しいバラが出迎えてくれそうなアーチ。アーチがある駅なんて他にある!?
こんな仕様の停留所だから、関東の駅百選に選ばれているのも納得。認定証には「上記の駅は、愛され親しまれ人々の心に残る駅として鉄道の日記念 関東の駅百選の一つであることを認定します」と書かれているのだが、確かに愛され親しまれているという言葉はこの三ノ輪橋停留所にピッタリ。
利用者や近隣に住む人々の三ノ輪橋停留所や都電荒川線への愛をとこどろどころに感じるから。
あ~この電車が早稲田まで走る道を歩いてきたんだな、とじ~ん。
電車や車では見つからない道をいく
早稲田から三ノ輪橋までの30停留所を歩いた都電荒川線を歩く旅。こうして歩いてみるとゴールにたどり着くという目標はあるけれど、さまざまな街並みや風情を体験することで、その土地の文化にも触れたように思う。街の文化が人を呼ぶのか人が街の文化をつくるのか、どちらもが相互作用しているものなのかもしれないけれど、この歩く旅で街ごとの個性を感じることができた。思いもかけない街の文化や人々に触れた体験から、発見や新しい興味もむくむくと湧いてきて、どんどん自分の世界が広がりそう。これは車や電車でなく「歩き」だからこその体験なのかもしれない。
道をたどれば、どこか違う街や人々に出会える。思いもかけない景色に出会う。
そう考えるとふだん歩く道を少しだけ寄り道してみたら、何か新しい出会いがあなたをまっているかもしれない。
日常に新しい変化や楽しみを生むのは、そんな小さなことがきっかけでもいいんじゃないかと思う。
都電荒川線を歩く旅もこれで最後。今度歩く時にはさらにたくさん寄り道をして、街や暮らしの様子を見届けたいと思う。