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吉四六さんと歩くとんちの道

吉四六の里 歴史探訪

野津の吉四六さんの写真野津の吉四六さん

大分県の民話の代表格「野津の吉四六さん」は、実在の人物である。
本名は廣田吉右衛門といい、名字帯刀を許された地方の庄屋であった。
大分県民なら誰でも一度は耳にしたことがある「吉四六はなし」は、ユーモアに富んだ「とんちばなし」や「まぬけはなし」、「ずるいはなし」、「うまいはなし」など、数百話もある民話の中の大ベストセラーであり、世にあるたくさんの民話の中でもこれほど主人公の実在性が強調されたものは他にはないといえる。
「吉四六はなし」が全国区となったのは、昭和50年代の一休さんのアニメ化によって巻き起こったとんちブームと呼べる現象と、まんが日本昔ばなしのヒットによって起きた昔話ブームであり、出版各社がこぞって児童文学の中にとんち話や昔話を題材にとりいれたことが旋風起因とされる。そして、光村図書版の国語科教科書にも採用されたこともあって、世間でもよく知られる存在となる。

吉四六。そのモデルとされている廣田吉右衛門の像の写真
吉四六。そのモデルとされている廣田吉右衛門の像

ここで「吉四六はなし」の代表的な民話を一つ紹介しよう。

とある日、とんち名人として有名な彦一が、きっちょむさんにとんち勝負を挑んできた。そこで村の和尚さんが立ち合いとなり、山の一本道でとんち勝負が始まった。
和尚の題材は、百を数える間に、なにか世の中になくてはならぬ物をこしらえてみろである。和尚のかけ声とともに二人は山のなかにはいり、題材の答えを見つけに行った。
和尚が百を数え終わると、まずは彦一が得意げに一体のかかしを出した。それを見た和尚は、これなら簡単に作ることができ、世の中にはなくてはならぬ物と感心した。しかしきっちょむさんは拍子抜けの表情である。そしてこう言った。
「さすがにあなたは知恵者だ。だがこれ一体だけか?」
「当たり前だ。百を数えるこんなわずかな間に、そうたくさん作れるものか」
「そうか、ではわしの勝ちだな」
きっちょむさんはそう言って、道ばたの草むらから刈り取った芝を見せると、一本、二本と数を数え始め、二十本を用意したといった。それを聞いた彦一はきょとんとした顔でこうたずねる。
「きっちょむさん、確かに数はそちらが上だが、でもそちらは、ただしばを刈っただけではないか?」
するときっちょむさんはにっこりとして、
「これはとんち比べの勝負だ。勝(刈)った方が勝ちに決まっているじゃないか」
と、答えた。

吉四六の家の写真吉四六の家
吉四六家2の写真吉四六家2
麦焼酎「吉四六」の写真麦焼酎「吉四六」

古くからとんち物語が語り継がれ今もなお人気のすたれることを知らない「吉四六さん」は、その当時から年貢のとりたてに苦しむ庶民の味方であった。どんなに厳しい時であれ庶民の相談役となり、持ち前のとんちで人々の難儀を救った逸話もある。そのとんちは今の日本人が忘れている大切ななにかを思い起こさせてくれる気がする。 時には踏査する道を歩むのも人生というものではないだろうか。

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